乳首を見せぬ女たち
2009-06-07


日本のアニメ作品を実写映画化した『ラスト・ブラッド』は、冒頭の地下鉄のシーンから目を瞠らされる。
このアニメ作品の世界観をきっちり実写で描こうとしているのがよく分かる。
地下鉄のシーン、東京の飲み屋街などのシーンの雰囲気も然り。

また、ドラマの舞台に米軍基地を中心に据え、そこから広げて行ったのも、欧米のスタッフが日本を舞台にした作品を描くにあたって、無理なく、よく考えた設定だと思う。
米軍基地へ朝、入ってゆく件(くだり)の描写などは活き活きとしていて素晴らしい!
このクリス・ナオンという監督は『キス・オブ・ザ・ドラゴン』という、ジェット・リーがギャングのボスからブリジット・フォンダを助け出す作品が監督デビュー作だったが、この映画も面白かった。
『ラスト・ブラッド』を観ていた時は監督が誰か知らぬままだったので、この米軍基地のシーンには、この監督、何者!? と思ってしまった。

マンガを実写化するのに、ただマンガのカット通りに撮って行けばいい、などとは、この監督は考えていないのだろう。

特撮の技術に関して言えば、今どきのハリウッド作品の水準から言えば、?と感じる部分もあるが、そんなことはどうでもいい。
勿論、世界観を描出させる手立てとして技術は重要だが、より重要なのはどういう世界を描くかと言うことで、その点でこの映画は見事に成功している。
オニの親玉演じる小雪も貫録充分に描かれており申し分ない。
ジュースが入っていそうな容器から血をすすり、刀片手に飛んで蹴って、斬りまくるチョン・ジヒョンも勿論、いいのだが、いいと思うにつれ、ひっかかるのが、何故、これが日本女優で描かれていないのだ? ということだ。

主人公は日本人なのですよ? サヤ、という名前からも分かるし、母親だって日本人だ。

以前にも、『SAYURI』という紛れもなく日本女性を描いた映画の主役が、チャン・ツィイーだった。
なぜこうも、日本の作品を世界が映画化する際に日本人女優が選ばれず、中国や韓国の女優が選ばれるのか?

最近、男優の方は、渡辺謙を始めとし、役所広司、オダギリ・ジョー、浅野忠信とか、更には木村拓哉まで(!)、海外に活躍の場を広げ始めている。
なのに、女優のほうはサッパリだ。
日本女優が世界レベルの作品の主要な役に抜擢される場合も、日本国内で知られた女優ではなく、菊地凛子(『バベル』)や芦名星(『シルク』)など、日本国内で無名の女優が大抜擢されるケースが目立つ。

なぜだ?

英語などは問題にならない。男優だって条件は同じだ。

『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレレス監督作品で世界的にも注目された『ブラインドネス』という作品には、日本から伊勢谷友介と木村佳乃が夫婦役で出演していた。が、木村佳乃が他の女性たちとシャワーを浴びるシーンを観て唖然としてしまった。
久しぶりに体を洗うことが出来る解放感に、屈託なくシャワーを浴びる女性たち。当然そのシーンでは女性たちのそういう気持ちに合わせ、その肢体もシャワーを浴びる中で伸び伸びと飛び跳ねる。自然とそのカットの中には乳房も見え隠れするーーのに、木村佳乃の乳房だけは一度もカットの中に出てこない。ジュリアン・ムーアなど世界的女優たちは自然に表しているのに、木村佳乃の乳房だけが表れないのは却って不自然だった。

『ブラインドネス』が昨年のオープニングを飾ったカンヌ映画祭。今年、その「ある視点」部門に出品された是枝裕和監督作品『空気人形』は日本を舞台にした作品だ。
主人公は等身大の女性人形ーー『ラースと、その彼女』で主人公ラースが恋人にする、男性が恋人の代り(セックスの代役)として使用するリアルな女性ドールーーで、その人形が人間の心を持ったら、というのが映画のテーマだ。
そういう設定だから、当然、映画の中には主人公(人形)に対する性的なシーンも出てくるのだろう。

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